大阪港湾局が中国武漢の港湾当局と提携の覚書を結んだことについて

締結調印式 武漢会場

大阪港湾局と中国の武漢新港管理委員会がパートナーシップ港提携を結びました。
中国を中心として巨大な経済圏を創るという中国共産党の戦略構想「一帯一路」の一角に大阪の港が組み込まれる可能性があります。経緯と問題点および対応についてまとめました。

随時、ツイッター(西村日加留 @n_hikaru_osaka)でもご報告いたします。

令和3年12月、大阪港湾局、中国武漢新港管理委員会と
パートナーシップ港提携を締結する

発表(資料画像)によると、昨年の11月に大阪港湾局は、中国武漢の新港管理委員会から「両港の協力関係構築」について打診を受けました。

その武漢側から提携の申し入れを受けたわずか1ヶ月後の昨年12月16日に、両港湾当局間で「パートナーシップ港提携に関する覚書(MOU)」が締結されました。
[覚書画像]※
[報道提供資料画像]
[大阪政府上海:締結式画像]※※
http://osaka-sh.com.cn/news/%E6%AD%A6%E6%BC%A2%E6%B8%AF%E3%81%A8%E5%A4%A7%E9%98%AA%E6%B8%AF%E7%AD%89%E3%81%AE%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97%E6%B8%AF%E6%8F%90%E6%90%BA%E3%81%AB%E9%96%A2/

覚書画像
報道提供資料画像

※大阪港湾局とはそれまで別々であった大阪市と大阪府の港湾局を統合した「大阪港湾局」を共同設置し、令和2年10月1日から大阪港と府営港湾(堺泉北港、阪南港ほか)を一元管理しています。

武漢新港は中国内陸の武漢市を流れる長江中流の港です。武漢市は中国における自動車産業や、医薬品ほかのハイテク産業集積地です。また、世界的なコロナウイルスが最初に蔓延、深刻化し話題にもなりました。

※※大阪政府上海事務所というのは「怪しげな名称」ですが公式なものです。大阪市と大阪府の上海事務所を統合後、このような名前になりました。(ネーミングセンスがどうかとは思いますが・・・)
https://www.city.osaka.lg.jp/keizaisenryaku/page/0000033306.html

令和4年5月、中国武漢港湾当局と覚書締結について調査を始めました

この問題の調査について説明するにあたって最初に申し上げておかなければならないことですが、この問題は府民の方からの「お尋ねがきっかけ」で発覚しました。

正確には、昨年12月13日に、大阪港湾局の担当部署から各党幹部ほか関係議員宛「覚書の締結とそれを報道機関に告知する旨のメール」が配信されています。私も受け取っていましたが、その後(海事専門誌以外)特段の報道もなく、確認不足で気がついていませんでした。

更に私が府議会で港湾を担当する委員会(商工労働常任委員会)の所属ではないこともあり、府民の方からご指摘いただくまで、この問題に気づかずにいました。
この点、私の落ち度であり誠に申し訳なく思っています。

「一帯一路」とは、中華人民共和国の習近平国家主席が2013年に提唱した、中国から欧州を結ぶ、中国中心の巨大経済圏を創るという構想です。

この構想についてわが国の政府は「全面的賛成はしない」「インフラの開放性、透明性、経済性、債務の持続可能性といった国際社会共通の考え方を十分に取り入れた形で実施されること」が必要という姿勢をとっています。

私は本件の締結が結果として、中国共産党の戦略「一帯一路」に大阪の港湾や物流が巻き込まれ、生殺与奪権を中国共産党政府に握られてしまったり、わが国が望まない形で利用せざる得ないなど、深刻な問題を招く可能性があると判断し調査を始めました。

覚書を締結に関する問題点、疑問点について

今回の覚書締結・調印については、その時期や内容についていくつかの疑問点があります。

一帯一路との関係

今回の覚書締結・調印は「日本国際貿易促進協会(河野洋平会長)」[協会HPリンク]という団体と「中国湖北省人民政府(王忠林省長)」が共催した「中国湖北ー日本経済貿易協力説明会」という東京で行われたセミナーイベントの中で「重点プロジェクトの調印式」として行われました。

パートナーシップ港などの覚書締結の目的は、通常、ポートセールス(港の利用促進、宣伝)の一環ですから、より訴求効果が高く、荷主等に大阪の港をPRできるよう「民間のイベント」の中で覚書の締結式等を行うこと自体は不自然ではありません。

しかし、この「中国湖北ー日本経済貿易協力説明会」の中では、本件覚書の締結・調印以外にも、引き続き「一帯一路」の促進プロジェクトの説明セミナーも行われておりました。

「一帯一路」促進セミナーを開くイベントの中で、「一帯一路」構想を推し進めている当の中国・武漢の港湾当局とパートナーシップ港提携の覚書締結調印式を行う訳ですから、荷主ほかの参加者から見れば、大阪港湾局が「一帯一路」構想に賛同、推進していると誤解を招く可能性が十分にあったと危惧しています。

なお、この大阪と武漢の両港湾当局が締結した覚書そのものには「一帯一路」の文言は記載されていません。しかし、当日の式次第など配布された資料には「中国湖北ー日本関西川海連絡輸送一帯一路プロジェクト」とはっきり「一帯一路」の文言が記載されています。
[式次第]

大阪の港湾は日本の海運物流の重要な港として発展してきましたが、阪神淡路大震災や世界経済の変化もあり、近隣アジアの新興国に競り負けている部分が目立っており、それらに対抗し、今後もその地位を向上発展させるために様々なアイデア、施策が必要です。

しかし、今回の大阪港湾局の行動には、コロナ禍以降の「社会情勢変化」を踏まえた将来展望を慎重になされているのかが不安に思えますし、「中国の一帯一路構想とは、一定の距離を置き、慎重に対応する」というコロナ禍以前からの国の方針や大阪の市民感情などとも齟齬をきたしているのではないでしょうか。

[一帯一路プロジェクト協議、調印式写真]矢印付き
[大阪・武漢両港湾当局調印式写真]矢印付き

大阪府議会の意見書採択に対する悪影響

この調印式の翌日の12月17日には大阪府議会において「中華人民共和国に対する人権の尊重と人権侵害問題への非難を求める意見書」の全会一致での採択が予定されていました。
これは、新疆ウイグル自治区において、大規模で苛烈な人権侵害を行なっている中国政府に対し、人権を尊重することを求めると共に、中国政府による香港、ウイグル、チベット、南モンゴルへの人権弾圧を「非難するよう日本国政府および国会に対して求める」という趣旨の意見書でした。

他国の行いを自国の政府に非難するよう求める意見書などというものは滅多に採択されることはありません。しかし、今回はその新疆ウイグル族に対する人権侵害のあまりの酷さ故に「大阪府議会全会一致」で意見書が採択されました。
日頃、議会の審議で政策等一致しないことも多い各党各会派ですが、中国共産党政府の非道に対して、人権上の重大な問題であるとして、全ての会派が一致して採択されたのです。

意見書で苛烈な人権侵害として挙げられている新疆ウイグル自治区やその首府ウルムチ市はまさに一帯一路の経路であり、鉄道の重要な拠点です。
大阪で船に積み込まれた荷物が武漢で陸揚げされ、鉄道貨車に積み替えられて欧州に輸送される。その鉄道経路として、新疆ウイグル自治区を経由する可能性があります。

このように重要な意見書採択の前日という最悪のタイミングで、大阪港湾局は大阪の港のセールスのためとはいえ「一帯一路」を促進するようなセミナーイベントの中で、覚書締結のセレモニーを行ってしましました。
大阪府民の人権侵害に対する危惧を中京政府に届けるべく、政治的メッセージとして、大阪府議会による上記重要意見書採択が行われましたが、その効力、信頼が損なわれてしまったのではないかと懸念します。

ポートセールスは大阪の港のため、ひいては日本経済のために必要なことですが、パートナーシップ港提携の締結のセレモニーが、同時期に行なわれた中国非難の「意見書」採択という大阪府議会の民主的、政治的行動について、対立し、効果を毀損するものであるが、そのような判断はどのようにして決定されたのか。あるいは、港湾局に対して監督権限のある、市長・知事が慎重な取り扱いを求める指示なぜできなかったのか、強く疑問に思います。

※この意見書は各会派と協議をし、私西村ひかるが府議会に提出いたしました。

(武漢港を経由した欧州方面への鉄道輸送は、新疆ウイグル自治区を通過する可能性があります。)
[大阪府議会意見書画像]
[大阪府議会意見書URL]https://www.pref.osaka.lg.jp/gikai_somu/r0309/ikennsho1217-10.html
[産経新聞記事画像]
[産経新聞記事URL]https://www.sankei.com/article/20211217-WJN6GYCHGZKL3IVNZCVQE243ZY/

その他の問題点

  • パートーナーシップ港提携の覚書には「両者は、人員の交流と相互訪問の強化に努め、港湾における人材の育成に努力する。」という条項があるが、政治体制の大きく異なる両国間(武漢側は政府組織)の人員交流等とはどのような想定なのか。(同様の条項は台湾との覚書にも存在する。)
  • 武漢において荷物を陸揚げ、鉄道路によって欧州方面へ陸送することによって「輸送にかかる日数を削減できる」と覚書調印式の行われた説明会の中で説明されている。
    日数短縮という顧客ニーズは重要ですが、中国国内の経由については中国による日欧間輸送の決定権(生殺与奪権)を握られぬように留意が必要ではないか?
    参考:[日本通運の中国欧州間輸送サービス経路図]https://www.logi-today.com/343828

そして、1そもそも論として

  • 本件は、昨年11月の申し入れから12月の覚書の締結までわずか1ヶ月の短期間で締結が決定されているが、「スピード決済」の理由と検討過程はどのようなものであったのか?
    [報道提供資料]矢印付き
  • たとえば現地訪問等を行わず、コロナ禍中に急いで締結する理由はなにか?
    (コロナの発生状況、渡航状況?? )
  • 「パートナーシップ港」締結後は、それ以前とどのような対応の違いが発生するのか? 締結港と未締結港の違いは何か?
  • 大阪港湾として、あるいは日本国内の利用者の立場に立って、武漢新港とのパートナーシップ港を締結することのメリット、デメリットは何か?
  • 単に友好関係を深めると言う理由だけで覚書が結ばれたのならば、大阪港湾局の行動は、同時期に行なわれた中国非難の「意見書」採択という大阪府議会の民主的、政治的行動について、対立し、効果を毀損するものであるが、そのような判断はどのようにして決定されたのか。

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また、覚書締結・調印式の「会場が東京」ということについて疑問に思われる方がいらっしゃるかもしれません。
大阪の港に関する覚書の締結にもかかわらず東京で開催され、しかも「日本会場と武漢会場をつないだオンライン」で行うのですから疑問は尚更です。
しかし、姉妹港やパートナーシップ港の覚書締結とはポートセールス(大阪の港の宣伝)の一環ですから、より宣伝効果の高い場所やタイミングを選び、荷主に対して大阪の港を利用してくれるよう訴求すること自体は自然です。
ただし、わが国にわが国の立場、方針があります。
行政による港湾の整備、利用促進はあくまで民間の物流、海運業の発展を促すことにあり、ひいては日本・地域の経済の活性化を目指すものと考えます。

大阪・武漢の両港湾局が行った覚書の締結調印式ですが、当日の「主役」ではありませんでした。
譲れない原則として、府市の長が方針を示すべきであったと考えます。
今後、定期航路開設などということがあるのかを十分注意していかなければなりません。

  • また、この調印式は「日本国際貿易促進協会(河野洋平会長)」という団体と「中国湖北省人民政府(王忠林省長)」が共催した「中国湖北ー日本経済貿易協力説明会」の中で「重点プロジェクトの調印式」として行われました。
    そして、本件調印式に引き続いて「中国湖北ー日本関西の川海連絡輸送一帯一路連通提携プロジェクト」との名称で、はっきりと「一帯一路」を掲げたプロジェクトの説明会も行われています。
  • 以上のことから大阪・武漢の両港湾当局による提携覚書の締結は、一帯一路プロジェクト全体の中の一部分に位置付けられているのではないかと懸念しています。
  • わが国の政府は、中国の「一帯一路」構想にはいくつかの問題点、留意点があり、全面的な賛成はしないという姿勢をとっています。
  • 「一帯一路」推進・説明セミナーを開くイベントの中で行われる大阪・武漢両港湾当局の提携覚書締結・調印式が行われることの意味は何か?

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わが国の行政・制度について

  • 法律上、地方自治体と国はそれぞれ独立した行政機関である。
    外交に関連する部分については本来国の所管であり、港湾については地方自治体の所管である。
    また、一港湾の物流のみならず、日本国全体の物流量、コストに関わる問題でもあり、多くの港湾関連企業や労働者に直接影響することでもある。
    しかし現状、本件のような場合の政府・地方自治体の連携についての法制、あるいは相談の窓口がない。
  • 政府との連携の法制がないならば、外交的側面も持つ複雑な案件に対してはその影響の大きさ故、単に役所の担当部局で検討するだけでなく、議会との緊密な連携にはかり慎重な検討を必須とすべきではないか。
  • 現在の社会状況および、将来を見据えた経済・安全保障の国家戦略に、港湾・物流についても重視すべきと考える。
  • 中国と日本は、経済的に補完的な面もあれば、ライバルでもある。
    中国は、一帯一路政策に代表されるように、戦略的に海外ネットワークの拡充を図っている。わが国も、グローバルに活動を展開する製造業等のサプライチェーンを支えるため、世界の成長市場にスピーディにアクセスできるとともに信頼性の高い輸送網を構築することが求められている。
  • また、釜山港に代表されるように、後発のアジア近隣諸国が国家的施策として、我が国を上回るペースで世界の基幹航路の就航が可能な大水深・高規格コンテナターミナルを整備するとともに、最新の情報通信技術を活用した効率的なターミナル運営をするなど、ハード・ソフト両面から大胆な港湾政策を展開するようになった。
  • わが国がより有利になるよう、他国に主導権を奪われぬよう戦略を練らねばならない。
    パートナーシップ港提携などもその戦略の一環と位置付けられるべきである。

これらの点について大阪港湾局へヒアリングをいたしましたが、その説明は全く納得できない内容でした。
[ヒアリングの具体的内容があれば]

調査と並行して府政の重要案件の府民の皆様に対する「見える化」が必要と考え、5月10日発信の私個人のツイッターでも、府民の皆様に問題提起をさせていただきました。

令和4年5月〜、メディアのニュースで反響

ツイッター発信後、複数のマスコミから取材があり、事実関係を説明させていただきました。
その後実際に、報道で問題提起をしていただきました。下記は私が受けた取材による報道ですが、それ以外にも問題点を共有する同志の議員が取材され、あるいは自ら執筆した記事などもメディアで公になっています。

[ZAKZAK画像]
https://www.iza.ne.jp/article/20220817-R42E75SE3BLMLBF4RENFVY7LJY/

[フライデー画像]https://news.yahoo.co.jp/articles/f2d9b115264540b557e280e7cd392b37a7a3d50e

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